5.ララ

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5.ララ

丁度1年前のボスニア。 ラブは、ピースが開設している小さな医療施設を訪れていた。 『久しぶり~サバ。元気そうで良かった。ご要望の薬や器具を持って来たよ。』 サバ・ライカン(37歳)は、ここの責任者である。 10年前、医者である妻と共にこの地に来た。 しかし、5年前の紛争の際、政府軍が乱射した銃弾により、妻を無くしていたのであった。 『ラブ、相変わらず美しいな。君が来ると、ここがボスニアってことが信じられなくなるよ。子供たちもお待ちかねだよ。』 ラブは、この近辺だけでも五つの学校を開いていた。 罪深い大人なんかに影響されず、子供達には明るく素直に育って欲しい。 それが彼女の願いであった。 『サバ、ララもちゃんと勉強してる?』 『それが、ひと月前から来なくなったんだよ。』 ララは11歳の明るい女の子。 四人兄弟の二番目である。 両親は反抗勢力に加担し、ララが7歳の時に死亡。 一番上の兄が働いて何とか生き抜いていた。 その兄が、病気で働けなくなり、代わりにララが働きに出ているのだという。 この地では、親を失った子供や、働く子供は普通のことではあった。 ララとの出会いは、一通のメールであった。ラブの作った学校には、子供達の為にパソコンが設置してあり、ラブの直アドもオープンで設けられていた。 『ラブさま、わたしララ。クリスマスはみんなでかみさまにお礼をしたいの。だからおねがいします。きてください。』 サバのコメントがあった。 学校の先生が、 『クリスマスは、みんなで神様に感謝しましょう。』 と言ったところ、ララは、 『ここに神様なんていないよ。神様なんて一度も助けてくれなかったし。私たちを助けてくれたのは、ラブ。だから、あの人に会って、ありがとうって言いたい。』 ということであった。 もちろんラブは、このリクエストに応えた。 クリスマスに子供達がくれた手作りの首飾り。 嬉し涙のラブに、 『泣かないで、ラブ。笑って。』 そう言って、ラブの涙にキスをしたのが、ララであった。
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