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「美優(みゆ)は誰かにあげないの?」
真希は振り向いて言った。嬉しそうに笑ってた。
「あげないよ。相手いないし」
私も笑った。真希と目を合わせることは出来なかった。
明日は真希や、恋する女の子達にとって特別な日。周りには手作りチョコのキットやラッピング用品が山のように積んである。真希は沢山の女の子達の間をするすると進んでいき、レジに並んだ。私はついていくのがやっとだった。
真希とは中1で同じクラスになった。佐原真希と汐谷美優。出席番号順の座席で、私の前に座っていたのが真希だった。
「ちょっと買いすぎたかな?」
帰り道、真希は紙袋をちょっと持ち上げて言った。
「平気だよ、友達の分もでしょ?」
「んー、そだね」
出会い方のせいかもしれないけど、私は真希のちょっと後ろを歩くのが癖になっていた。真希は前を向いたまま話し、何か尋ねる時はちょっと振り向く。
「ね、美優もさ、中1の時はクラスの子にチョコ配ってたじゃん?なんでやめちゃったの?」
止まりそうになる足を見つめながら、私はまた笑った。
「なんか、面倒くさくなっちゃって」
真希は顔を前に戻して笑った。
「ダメだなぁ。そんなんじゃ乙女失格~」
出会ってから今年で3回目のバレンタインだけど、真希は毎年同じ人に本命を渡している。
瀬尾祐介君は真希の幼なじみ。私達3人は、中2の時同じクラスで、遠足の班も同じになった。
遠足で、真希が転んで肘をすりむいた時、瀬尾君が真希のリュックから素早くバンドエイドを取り出して貼ってあげた。
私はその時も真希の後ろに立っていた。一瞬だけ、瀬尾君が優しく微笑んだのが見えた。
真希はよく瀬尾君の話をした。小さい頃、家族ぐるみで旅行に行ったこと。一緒に秘密基地を作ったこと。小学校の時、二人三脚でペアを組んだこと。
告白しないの?って聞くと、真希は「やだよ、今さら」って顔を真っ赤にして笑った。私はその幸せそうなほっぺたを思いきりつねってやりたくなった。
私から見ても、瀬尾君は真希に優しかった。
そんな瀬尾君のことを、いつしか好きになっていた。
「真希、今年こそ告白しなよ」
真希は立ち止まって振り向いた。
「いやー無理かなー」
またほっぺたが赤い。私は予想通りの答えにほっとしながら「なんだー残念」と笑った。
今年のバレンタインも、私は誰にもチョコをあげない。
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