朝菊結婚記念日SS

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ぽかぽかと暖かい、 こたつの中は天国です。 「菊、いるか…?」 でも、あなたの声が聞こえたら、 私はいくら寒くても、こたつを出て あなたに会うための寒い玄関へと 駆け出す方が幸せなのです。 呼吸を落ち着けてから玄関の戸を開ける。 「こんにちは、アーサーさん どうなさいました?」 「これ、やる」 白い息をはいて、そう告げた彼の手には かわいらしい雪だるま。 「ありがとうございます」 あまりにも可愛い贈り物に、頬がこれ以上ないほど緩んでしまいました。 「べ、べつにお前のために作ったわけじゃないんだからな!俺が作りたかっただけだ!」 顔を朱に染めて視線を逸らして叫んだ彼は、走って出て行ってしまった。 「あ、アーサーさん…!」 我に返って草履をつっかけて後を追うも、もうアーサーさんの姿は見えなかった。 掌に残された小さな雪だるまに視線を移すと、私の体温によって 掌に触れている部分が溶け始めている。 慌てておけに入れて、家の中で一番寒いであろう縁側へ置いて、じっとその雪だるまを見つめる。 翠色の植物の実で表された目の上の、 眉毛を表しているであろう枝。 枝で表された少しだけへの字になっている口。 「ふふ、アーサーさんに、そっくりです」 思わず破顔して呟く。 それにしても、 どうして彼は今日のように 冬にしては晴れた暖かい日に このプレゼントをくれたのでしょうか。 「すぐに… 溶けて、しまうじゃないですか…」 とても嬉しいのに なんだかほんの少しだけ 拗ねたような心持ちになったけれど、 「…今日はあなたと過ごしましょうかね」 家事も昼食も、段々と溶けて行く彼を 見ながら。 暖かい日差しに 段々と溶かされていく彼は、 夕食のころには ほとんど形を無くしてしまっていた。 残っているのはわずかな雪と 二つの翠色の実と、枝、 そして、 静かに銀色に輝いている、何か。 うっすらと残っている雪の中で 微かに姿を見せるそれ。 「…もう、本当にあの方は…」 どこまで私を幸せにすれば 気が済むのでしょうか。 小さい雪だるまから現れたのは 貴方から私への 誓いの証 ________________ 結婚記念日なので プロポーズで(*´U`人)
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