理想

8/26
前へ
/164ページ
次へ
「話、逸らされるところでした」 ハーヴェイが白昼夢から戻ってくると、鷹のような片目が正面にあった。 「あのブタがあなたと話した後、やけにご機嫌だから、何かあったのかと思いまして」 「ああ、心配してくれたんか。ありがとう」 ハーヴェイは目元に皺を寄せる。 「しかしなんてことはない。ゴートン先生が欠勤したから、代わりに授業してくれというものや」 「そうですか。ところでどのクラスですか?」 「2-Cと5-Sだが……」 タバコを吸う手が止まる。 「5-S? なるほど。道理であのブタ、ご機嫌のわけだ」 片目で臙脂色を睨む。殺気のこもった切れある眼。彼は教師になる以前、傭兵だったのだと改めて思った。 「悪いことは言いません。止めといた方がいいですよ」 「なんでや?」 「貴族の教員があのクラス行くと、あんな素晴らしいクラスはないって言うんですよ。でも平民の教員が行くと」 指で叩き、タバコの灰を皿に落とす。 「あんなひどいクラスはないって言うんです」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1217人が本棚に入れています
本棚に追加