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「あ~ロゼ、こっちぃ!」
肌寒い冬の夜気を切り、旅人が酒場の扉に顔を入れたところで、店内から呼び掛ける者がいた。
ロゼと呼ばれた厚手の外套を纏う少年にも見える旅人は、声へ視線を向ける。
テーブルに並ぶグラスの山、それを積み上げようとする男の蝋の肌が赤みを帯びているのに気づき、ロゼは嘆息した。
「呑んでんなぁ」
真向かいに座る友人を、血色の虹彩が非難がましく責め立てる。
「遅ぇぞ」
「いや、悪い。人間に化けるの結構手間取って」
外套の下に荷物を背負っているかのような異様に膨れた背中を見せつつ、声を潜めて弁解した。
「というか、なんでこんな人の多い酒場に?酒だけ買っていつもの……」
「鍾乳洞とか荒野?俺、そういう辛気臭いところ嫌いなの。たまには賑やかなところでぱーっと呑みたいんだよ」
またグラスを空ける。その動作は不自然に洗練されていた。
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