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「とか言ってどさくさに紛れてつまみ食いするつもりなんじゃないの?」
客が増えたことを知覚し、背の高いウエイトレスが接近する。
「追加注文は御座いますか?」
男は、整いすぎた美しい笑顔を作った。
「血のように紅いワインで」
彼女の頬が染まり、夢遊病者の足取りで厨房に消えていく。
男は、血の通ったうなじを嘗めるように見つめていた。
「ふふっ。赤くなってんの。そそられるぅ!」
舌嘗めずりする紫の唇から残忍な二対の牙が覗く。
「ニコラス、お前やっぱり……」
警戒を見せると、ニコラスはようやく視線を外した。
「大丈夫だよ。理性がぶっ飛ぶほどには飢えてねぇよ。今の主になってから、たらふく呑ましてもらってるかんな」
「イブリースの王子様、か」
数々の妖魔にも一目置かれる存在。それがイブリース。悪魔の階級の最上位に位置し、その力は山をも動かすと言われている。
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