ヴァンパイア執事

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悪い奴ではないが、この泣き上戸だけは頂けない。 もう数百年は生きている成人の吸血鬼をどうにか宥めすかす。 「嫌なら帰って来いよ。あの古城へ」 気がつくと、そんな言葉を紡いでいた。 「ニコラスシニアはいなくなってしまったけれど、またあの頃のように一緒に暮らそう?二人でなら、朝から晩まで面白可笑しくやっていけるさ」 人気のない廃墟のような汚い城で、二人の子供はいつもお腹を空かしていたけれどロゼにはあの日々が懐かしい。 ニコラスの父が眠る柩に落書きして叱られたり、色黒になりたいと言い出したニコラスが炎天下で肌を焼いた反動で寝込んだり、蝙蝠とロゼの翼で何処まで飛べるか競争したり。 けれどニコラスの父が死に、ニコラスは一人でイブリースの元に行くことを決め、共に過ごした子供時代は終わった。 今はたまにこうして酒を酌み交わす程度。 「できねぇよ」 ニコラスは消え入りそうな声で呟いた。 そして髪を掻き上げ、別人のように雄弁に語る。 「だいたい俺さ、あんなじめじめしたところ嫌いなの!もうガキじゃねぇんだし、あんなところに閉じ込められるなんて恐げが立つ」 「ニコラス……」 ロゼは紅の唇を薄く噛み、寂しげに見つめた。 何の相談もせずに自分をおいていってしまった相方を詰るように。
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