理想

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    ‡  ‡  ‡ 「信者の血を啜り、黒魔術に手を染めたと言われるミトラ教は、決して邪教ではなかったのです」 貴族ばかりの学会の壇上で、ハーヴェイの声は朗々と響いた。 「それどころか、貧しい農民たちの支えになったのです」 ハーヴェイは裕福な商家の次男だった。商才のあった兄とは違い、内気で引きこもりがちだったハーヴェイは、本の世界に没頭した。 歴史学者になりたいと宣言した時、両親は猛反発したが、兄は笑って言った。 「応援してやるから、お前が書いた歴史書をただでくれよ」 結局兄が死ぬまで、歴史書どころか一つの論文も認められなかった。 全て貴族に握り潰された。
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