理想

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    ‡  ‡  ‡ 職員室の休憩スペースでコーヒーを啜りながら、ハーヴェイは新聞に目を通していた。 「ハーヴェイ先生」 老眼鏡を外すと、血のようにどす黒い臙脂色の髪の男がいた。 「なんでしょう」 男は丸い顔で、とってつけたような愛想笑いを浮かべた。 「実は今日、ゴートン先生が体調を崩してしまったらしくて」 ゴートンとは、ハーヴェイと歴史の科目を分担している教師である。 「彼の代役として、授業をして頂けませんか?」 「時間とクラスは?」 男は手にしたメモを読み上げる。 「えーと、一限が4-E、三限が2-C、四限は礼法ですから別の先生にお願いするとして、五限は5-Sです」 ――5-S? ハーヴェイは眉を潜める。 ――貴族のクラスか 「はい、一、三、五ですね、わかりました。一限は埋まっていますが、後は大丈夫です」 「わかりました。ありがとうございます」 男はちょこんと頭をさげ、貴族側の席に戻って行った。
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