理想

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「ハーヴェイ先生」 「ああ、ザード君」 砂色の短い髪の隻眼の教師が、正面の席に座った。 「あのブタに何か言われました?」 ハーヴェイは苦笑する。 「ブタって……」 確かに剣術を教える彼の引き締まった身体と並べば、ブタにも見える。 「尻尾つければ、完璧なんですけどね」 彼は貴族を嫌っていることを隠そうとしない。あからさまに態度に出す。 ハーヴェイの半分ほどの人生を歩んできたこの男は、その道のりで、貴族に相当な恨みを抱いたらしい。 「少し歩み寄る努力をしたらどうや」 「むこうが歩み寄りを見せない限り、無理ですね」 言葉を吐き、慣れた手でタバコを取り出した。
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