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私は鈍い痛みが走る膝を睨み付けた。
またやってしまった。
膝は青い。おそらく私の今の顔も、若干青い。
ここ一週間で、約四度もの衝突事故を起こしている私の左膝。
だがしかし、ここで膝を抱えて痛みを体全体で抑えこむことは出来ない。
何故なら今私のいる場所は、バスの出入り口だからだ。
そんな中途半端な所で運悪く膝を打ちつけたのだから、たとえこの痛みが私の可愛いじゃがいも膝をえぐろうとも、悠々とバスを降りなければならない。
背後には人が並んでいた。
「あの、さっさと降りてくれませんか」
‐水面下の水仙は‐
愚か者め。
私は小さな声で呟いた。
その言葉が当然背後の人物に聞こえているはずもなく、さっさと降りやがれと言わんばかりに暗黒のオーラで私を背後から脅していた。
決して謝りなどはしない。
そのような脅しに私は屈しない。
何故なら私は間違いなどおかしていないのだから。
のろりとした動作でバスを降りた。もちろんそれは背後の愚か者への嫌がらせとして、だ。
鉄の塊から地面へと降りたったその瞬間、不意に背後から灰色がかった声が転げ落ちてきた。
「くそがき」
それは私の横を通り過ぎて無様にもボトリと地面に転がる。
容赦なく蹴り上げた。私が見届けるまでもなく、灰色がかった奇妙なその声は絶妙な弧を描き、下水道に落ちていった。
そこで妙な満足を得る。
いささか気持ちがいい。今日の所は許してやろう、名も知らぬ背後の愚か者よ。
私は振り返らずにバス停から帰路についた。
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