44人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
ここまで近くまで寄って目の当たりにしたもの。
血で汚れた着物、
血に塗れた手、
血の筋がついた口。
それらも確かに心に刺さったが、それよりも、
虚ろな目から流れる涙とその表情のほうが俺には堪えた。
俺達は双子だが、ヤスナはそれでも長男だ。
どんなに大病患って辛くても、父から理不尽押し付けられても、弱音も吐かなきゃ愚痴もこぼしたことはなかった…
泣いた事なんかないんだ。
少なくともいちばん一緒にいる俺の前ではなかった。
なのに…
ヤスナはもう全てに負けたような顔して泣いている。
だってその通りだ。どうしようもないんだから。
「……っ私には…もう時間なんてない……」
「ヤスナ…」
「また原料からっ……考えてたら…間に合わない……」
「…………」
「何も残せないのか…お前にもこの村にも……何も…」
いまの怪我人がよく出る状況を変えようなんてのが間違いだったのか。
そもそも即効性の薬なんて無理だったのか。
「そんなことない」と否定しても、今その言葉は耳に届かないようで…
ヤスナは独り言のように呟いて、俺に体重を預けた。
最初のコメントを投稿しよう!