霧兎【ヤスナ】

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「ヤスナ先生」 キリトが寄ってきた。 隣って言っても『いちばん近い家』という意味で、家自体は結構離れている。 帰れないからきっと退屈なんだろう。 まだ髪から雫が落ちている。 近くに重ねてあった布を取って、髪をわさわさしてやる。 「…風邪引くぞ、ちゃんと拭かないと」 「ヤスナ先生に心配されても何だかなぁ…」 この餓鬼… キリトは生まれたときから見てきたが… 本当に口ばかり達者になったもんだ。 「先生、顔色悪いよ」 「…いつもさ」 「先生は何ていう病気?」 「さぁ…何ていう病気だろうな…」 そこでまた咳が出た。 雨の日ってのは大体いつも調子が悪い… 加えて今日は少しぼうっとする。 「先生以外のお医者さんは、いちばん近くてどこにいるの」 キリトは身を乗り出して聞いてきた。
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