44人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
淋しい村に、2人の若い医師がいた。
彼らは兄弟で、二十歳を過ぎたばかりだったが、村で唯一の医者だった。
名医として度々、山を2つ越えた所の町へも呼ばれていた父を急に亡くし、
2人は手を取り合って静かに暮らしていた。
兄のヤスナは聡明だった。
だが非常に体が弱く、無理を重ねて寝込むこともしばしばあった。
弟のセンリは丈夫な体を持っていて、こちらもまた俊才だった。
だが主にセンリは森へ入って、薬の材料となるものを集める役目を引き受けていた。
2人は仲が良かった。
病弱なヤスナをセンリは大切にしていた。
お互いの足りない部分はお互いで補った。
センリが集めて来たものをヤスナが的確に調合する。
人里を遠く離れた小さな村の医師としてはもったいないほど、その薬はよく効いた。
平和だった。全てが静かで暖かだった。
森と山に抱かれたこの村で、ヤスナとセンリは名も無い医師として果てるはずだった。
しかしそうはならなかった。
2人の青年はその頃まだ知られていなかったある薬草を通して、
ひとつの悲しい物語と共に長く語り継がれる事となる。
これはその2人の、誰も知らない行く末の話。
最初のコメントを投稿しよう!