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キリトが生まれた日。
あの日は朝から晩までずっと嵐で、最高に体調が悪かった。
頭痛と熱と吐き気に同時に悩まされて、寝てもさめても楽にならない。
センリが一生懸命介抱してくれたおかげで夕方頃にやっと熱が下がり、
嵐もその頃ようやく疲れてきたような感じだった。
そんなときうちに駆け込んで来たのがキリトの父親。
真っ青になって息も切れ切れに言ったのは。
『今っ…うちの子が生まれるところなんだが……っ…どうにも具合が悪いらしくて……産婆さんが医術の知識がある人にも来てほしいって………』
家から見える唯一の家。
この村の中でも特に辺境に家を持つ者同士として、キリトの家とは昔から仲良くしていた。
母を幼い頃なくし、父は度々山を超えて町へ呼ばれていたため、色々と世話になっていた。
父はその日も居なかったが…
これはどんなに辛くても、何としても行って助けてやらなければ…
弱まってきた嵐の中をセンリと共に歩いて行ってみると、出産は随分前に済んだようだったのに、
母親はいくらか良いが、赤子の方は泣き声も上げずにぐったりとしていた。
それも普通の赤子より一回り半は小さいかと思うような体をしていた。
こんな生まれたばかりの赤子など診たことはない。
今ならともかく6年前だ。経験が足りなかった。
取りあえず父の残した手記を元に、出来るだけの処置はした。
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