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『……ほら、寒いだろう』
頬を掠める風の中、独り言のように呟いた。
『泣かないとな……死んでしまうぞ』
そして軽く背中を叩いた。
小さな体を優しく揺すった。
それでも赤子は応えない。
『……兎みたいなやつだな』
『ヤスナ、大丈夫か』
なかなか帰ってこないので、センリが来る。
赤子の父親も来た。
もう駄目だと思っているのか、半泣きのような顔をして私が抱いている自分の息子を見る。
今度は赤子に顔を近づけて、さっきのように呟いた。
『……一声で良いから、お前の父さん母さんに声を聞かせてやれ』
そしてまた軽く背中を叩く。
生まれてすぐ親不孝を働く気か、とも言ってやる。
それでも黙ったまま、すうすうと不安定な呼吸をしている。
私は自分が具合悪かったせいもあって、何かが体の中で切れたような感覚がした。
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