霧兎【ヤスナ】

9/9
前へ
/118ページ
次へ
「俺ねぇ」 目の前にいる、6才になったキリトが言う。 「俺ヤスナ先生みたいなお医者になるよ」 「ほう」 「そいで先生の病気治してあげる」 「病気じゃないと言うのに」 「じゃあ…ヤスナ先生がもっと元気になるようにしてあげるよ」 「はは…それはありがたいな…」 あんなに弱々しかった子がよくここまで丈夫に育ったものだ。 数日で死んでもおかしくなかったのに… まぁ何と言ってもあの爺さんの孫だからな。 生死にはしぶといんだろう。 「町へ出て…立派な先生の元で勉強するんだ」 「ん?…あぁ私では立派じゃないから駄目か」 「ヤスナ先生は立派だけど、俺に教えてるうちに倒れちゃいそうだから」 この餓鬼…本当に口ばかり達者になりやがって。 私はまだ雫が落ちているキリトの髪を手で梳いて、 「大きくなったな…キリト…」 と小さく言った。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加