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昨日の天気が嘘のように、空は機嫌よく晴れていた。
水がかなり増えた水路も川も、大人しく流れている。
村の周りを囲む山々も、目の前の森も、いつも通りに静かだった。
「よし…じゃあ行ってくるかな」
着物の裾を端折って、その下に短い袴のようなものを履く。
その裾を少し纏めて、膝あたりから草履より山歩きに適した履き物をつける。
一見すると、笠や荷物を持っていない旅人の格好に近い。
こういう格好をしないと、前の森で採集をするのは困難になる。
俺はいつもこの格好で、布袋だけを帯の端から吊して材料を探しに出ていた。
「センリ、地震や嵐で色んな場所が変形してるかもしれない…気をつけて」
「そうだな…わかった」
そういえば地震が来たとき、森から大きな音がした。
ただでさえ起伏の多い、山のような獣道の森だ。
俺は少しゆっくり行くと言って、家に関しては全く無関心なのに、心配そうな顔をしているヤスナに手を振って家を出た。
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