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湯飲みの中の水が一瞬で赤くなった。
死ぬの?
ねぇヤスナ先生死ぬの?
嫌だよ。
「……死なないよ」
「…でも…血…」
「まだ死なない」
ヤスナ先生はもう一度水を飲んで、小さな咳をした。
そして俺を呼んだ。
「…キリト、頼みがある」
「なに?」
「いま見たことを…センリに言わないでいてくれるか」
「えっ…!?センリ先生…知らないの…ヤスナ先生がこんな風になって……」
「知らないんだ。センリだけじゃない、村の誰にも言わないでくれ」
「だけど、先生は…」
「頼む。時間がないが、どうしてもやり遂げたい事がある。それまで邪魔されたくないんだ…」
時間がない。
このときも俺は小さすぎて、それがどういうことなのか理解出来てなくて…
ちゃんと考えれば、小さくても解ったはずだ。
先生は治療してもしなくても関係なく、
ただ死ぬことの道しかない、不治の病気だったと。
その病気は街のすごい医者に行っても治らない、真っ赤な病気だった。
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