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看護師によって点滴の翼状針が刺され、点滴が流される。
「え、消毒しないんですか」
「はい。しません。消毒は傷の細胞を殺しまくるくせに、菌はあまり殺せないんです。
組織障害性って言います。
消毒する事で感染を防げない、むしろ傷が悪化し感染しやすくなる事が医学的に証明されています。
傷を水道水で洗うだけで十分なんです」
「知らなかった」
「無理無いです。
比較的新しい知識ですから知らない医師もたくさんいるくらいです。それとやけどの場合は水ぶくれ(水疱)を破って、水疱膜と言って水疱の上を覆っている皮膚をはさみで切除しないといけません。細菌の培地と言うか、温床になるからです」
「はい、麻酔はしなくて大丈夫なんですか」
「大丈夫。水ぶくれの膜に神経は無いから痛みはないですよ」
「はい、お願いします」
津田はラテックスの手袋をはめた。
「じゃ、潰します」と言い、右手の親指でギュッと水疱を圧迫して、水疱を潰した。
「クーパー下さい」と看護師に言う。
看護師は先の丸い外科バサミを差し出す。
「じゃ、水ぶくれ切り取っちゃいますね」と呑気な声を出し、差し出されたクーパーを右手で持つ。
水疱の破れた創縁にクーパーを入れジョキ、ジョキと水疱膜を切り取る。
津田は看護師の差し出した膿盆(金属製のトレイ)に水疱膜とクーパーを置く。
「無鈎鑷子」と言う。
先端の丸いピンセットが渡される。
創面(傷口)のゼリー状の膜を鑷子で取り除く。
これも水疱膜と同じく感染源となるからだ。
膿盆にゼリー状の膜と鑷子を置く。
「はい、水道水で洗いますんで、脚をバケツに入れて下さい」
と言い、ぬるい水道水の入ったバケツが処置台の脇の床に置かれた。
神部は足を入れる。
津田がぬるいお湯をかけて優しく洗う。
洗い終わりバケツから出したら水気を取る為にガーゼで軽く拭く。
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