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おじさんの襲撃から難を逃れた二匹の猫は小さな公園の白いベンチの上で、手に入れたばかりのサンマを仲良くごちそうになっていた。
口いっぱいにサンマの肉を詰めながら、ベンチが力説する。
「いいか? 何度も言うが野良の世界は甘くない。自分のことは自分で全部やんなきゃいけないんだ。そのためには強くならなきゃいけない。いいな? 強くなるんだぞ?」
「うん! わかった、強くなる!」
一生懸命サンマをほおばるネネ。ベンチは本当に理解してんのか? と一瞬不安になったが、なぜだかネネの笑顔を見ていると、どうでもよくなってしまう。
ベンチは少しずつ変わってきたのかもしれない。いや、知ってしまったのかもしれない。他者と交わる喜び、楽しさ、温かさ。
ベンチはハッキリと自覚しているわけではないが、どことなく自分が変わったことを薄々理解してきている。そしてもう少し、もう少しだけこの生活を続けてもいいかなと思っていた。
そんな心境の変化を感じてからも、ネネの野良猫としての修行は毎日続いた。人間から逃れる術、食糧を調達する術、ベンチの知っている野良として生きていく術を惜しむことなくネネに与えていった。
その甲斐あってか、ネネも次第に野良としての自覚が芽生え、ある程度自分のことは自分で出来るようになってきていた。
ある日のこと、その日は朝から雲行きが怪しく、昼からはポツポツと雨が降り始めていた。
「お前もだいぶ野良猫らしくなってきたじゃねぇか」
いつもの公園のいつもの白いベンチの上。二匹の野良猫がゴロンと寝転がっている。
「本当!? 僕強くなった?」
「あぁ。昔に比べればだいぶな。だけどまだまだだな。お前、何かあったらすぐ泣くだろ」
ベンチはケラケラと笑いながらネネをちゃかす。
「もぉ~ベンチの意地悪」
たわいもない会話に花を咲かす二匹の野良猫。しかし、ベンチは一つ決心していることがある。
「よし! ちょっと待ってろ、ネネ。すぐに戻るから!」
「え?」
ベンチはそう言い残すとピョンと飛び降り、商店街の方へ駆けて行った。
「どこいくのーー!?」
「すぐ戻るから! そこで待ってろよ!」
すぐにベンチの姿が見えなくなってしまった。
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