出会い。そして……

11/14
前へ
/18ページ
次へ
「今日はアイツの卒業祝いだ」 ベンチはいつもの商店街に来ていた。ベンチは決めていた。今日、ネネと別れを告げることを。いつまでも自分に頼っていたのでは立派な野良猫にはなれない。アイツはもう十分に強い。一人でもやっていける。ちょっと寂しくなるが、これもアイツのため。 飼い猫からの卒業だ。 「よし! 行くか」 ベンチはいつも通りの忍び足で、いつもと同じ魚屋さんに潜りこむ。目当てはタイ。いささか重いが、卒業祝いだ、ちょっとくらいがんばってやろう。 タイが置いてある場所は知っている。サンマの隣。ベンチはサンマをとる時と同じように、ゆっくりとタイの下までくると、ピョンとジャンプしてタイの尻尾に噛みつく。 「なにしてやがる!!」 タイをくわえ去ろうとした時、いつものおじさんに見つかってしまった。すぐさま走りだそうとしたのだが、思った以上にタイが重く、思うように走れない。 それでも必死にタイを引きずり、逃げようとする。 「逃がすか!」 おじさんは右手に持ったホウキでベンチを殴り飛ばした。甲高い声と共に、ベンチは吹き飛ばされた。すぐ横には泥だらけのタイが横たわっている。 さらにおじさんはベンチを蹴り飛ばすと、横に落ちていたタイを拾い上げ言った 「これでもう懲りただろ。二度と来るんじゃねぇぞ。ったく、せっかくの商品が泥だらけじゃねぇか」 おじさんはそれだけ言うと、お店の脇にあるゴミ捨て場にタイを放り投げ、お店の奥へと姿を消した。 先ほどまでポツポツとしか降っていなかった雨が、徐々に強さを増している。 ベンチはゆっくりと立ち上がろうとした。しかし、立った瞬間右後ろ足に電気が流れたような激痛が走った。だがそんなこと気にしてはいられない。今日はアイツの、ネネの卒業祝いだ。なんとしてでもタイを持ち帰る。image=246682571.jpg
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加