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「わるい……な、またせちまって」
「ベンチ!! なにがあったの!?」
目に涙を浮かべ、必死に問いかけるネネ
「これ、お前の……卒業祝い」
「え?」
ベンチは首だけをタイの方向に動かす。
「どういうこと?」
今にも泣きだしそうなネネ。
「いいか、よく聞け。野良猫はな……強くなくちゃいけないんだ。お前はもう十分強くなった。だから……俺がいなくても……もう大丈夫だ」
「嫌だ!! ベンチがいなきゃ嫌だ! 強くなんてならなくったっていい!! だからベンチ! 一人にしないで!!」
泣き叫ぶネネ。おそらくもうネネも理解しているのだろう。もうすぐベンチとお別れをしなければいけないということを。
しかし、頭では理解できても、納得なんて出来ない。
「わがまま……言うなよ。約束……しただろ? 一緒にいるのは……お前が強くなるまでだって」
途切れ途切れに声を絞り出すベンチ。
「そんなの知らない! お願いだよ、ベンチ……一人にしないで」
「なぁ……ネネ」
「なに!?」
泣きじゃくるネネに、静かに語りかけるベンチ。
「ありがとう……」
「そんなこと言わないでよ! これからもずっと一緒でしょ!?」
かすかに聞こえるネネの叫びもだんだんと遠のいていく中、ベンチは思い出していた。これまでの日々を。
今思えばあっという間だった。この公園でネネと出会い、それから一緒に生活して、いつまでたっても成長しないネネに呆れたこともあったな。
死に際に思い出すのはネネと過ごした日々ばかりだ。結局最初に感じてた、あのもやもやした気持ちが何だったのかわからないけど、もうどうでもいいや。だって、今こんなにも温かい気持ちでいっぱいだから。
ありがとう、ネネ。お前に会わなかったらこんな気持ちになることなんて、一生なかったと思う。俺はお前から大切な物をたくさんもらった。本当にお前に会えてよかったよ。
「ねぇベンチ!! ねぇってば!!」
ネネの悲痛な叫びも、もはやベンチの耳にはとどいていない。
ふとネネの視界に入ったのは泥だらけのタイ。ベンチが命がけで持ってきた卒業祝い。
ネネはふらふらとタイに近づき、ガブリと食らいつく。
泥だらけで、決して美味しいはずもないのだが、ネネは無我夢中でタイを食べた。泣きながら。
その日、小さな公園では一日中猫の鳴き声が響き渡った。空はまるでネネの心の鏡のように曇っており、雨がやむことはなかった。
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