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「待て!! この泥棒猫!!」
活気溢れる商店街。一人の頭にタオルを巻いた、体格のいいおじさんが声を張り上げ罵声を吐く。
おじさんの視線の先には一尾のサンマをくわえ、猛スピードで人の波をすり抜けていく一匹の黒猫。
「またやられた……」
おじさんは拳を握りしめ、悔しそうにそう呟いた。
一方、まんまとサンマを手に入れた黒猫は商店街を抜け、小さな公園にやってきた。人の気配はまるでない。それもそうだろう。その公園にはブランコが二つに滑り台が一つ。それに小さな塗装の剥げた白いベンチが一つ。子供が遊べるような物はほとんどない。これでは人が集まらないのも頷ける。
黒猫はベンチの下まで来ると、ピョンっと軽快にジャンプして上に乗る。
「さっそくいただきますか」
黒猫はくわえていたサンマを置き、器用に前足で抑えると、口を広げかぶりつこうとした。その時、ベンチの下から微かに声が聞こえた。猫の声だ。
黒猫はいったん食事をやめ、ベンチから降りる。
すると、先ほどは気がつかなかったが、薄汚れた小さいダンボールがちょこんと一つ置いてある。どうやらこの中に声の主がいるようだ。
黒猫はそっと中を覗く。そこには一匹の小さい白猫が、眼に涙を浮かべ泣いているではないか。
この時黒猫は思った。心底面倒くさいと。こういうのは関わらないのが一番だ。他者のせいで自分の行動が制限され、やりたいことが出来ないような生き方はしたくないし、やったことがない。
今の生活に満足している黒猫は他者との交わりという未知の領域を嫌がった。
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