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さっさと食事を済ませてこの場を去ろう。そう考え、白猫から視線を外そうとしたその時、本当に小さな声で白猫が言った。
「一人にしないで」
一瞬驚いた表情を見せた黒猫だが、その言葉の意味を理解し、ふつふつと怒りがわいてきた。一人にしないで? 何を言ってるんだ。
「おい坊主。一つ良いことを教えてやる」
黒猫はダンボールから顔を覗かせ白猫を睨みつけると、皮肉をこめて言った。
「お前は捨てられたんだ。人間に。わかるかこの意味が。つまり自由になったんだ。何者にも束縛されず、やりたいことは何でもできる。どうだ? 考えただけでハッピーだろ?」
それだけ言うと黒猫は「じゃあな」と言ってサンマをくわえ、その場を後にする。が、尻尾が何者かによって引っ張られる。黒猫はサンマをくわえたままため息を一つ吐き、ゆっくりと振り向く。
案の定。そこにはいつダンボールから出たのかわからないが、自分より一回り小さい白猫が弱々しい力で自分の尻尾の先を噛んでいた。
「行かないで?」
涙目で訴える白猫。
「オーケーわかった。だからとりあえず俺の尻尾を噛むのはやめろ」
黒猫が呆れながらそう言うと、白猫はゆっくりと口元から尻尾を離す。
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