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そんな時、ふと汚れで黒くかすんでいる白いベンチが目に入った。
「ベンチ」
「ベンチ?」
「あぁそうだ。俺の名前はベンチだ」
かなり適当な決め方だったが、どうにか名前を決めることができた。
「俺の名前もわかったことだし、そろそろ答えてもらおうか。ネネ、お前はこれからどうしたいんだ?」
しばしの沈黙の後、絞り出すかのように声を出す。
「ご飯食べたい」
呆れた。付き合いきれない。
これから誰の手も借りず、一人で生きていけなければならない野良の世界に身を投じたにも関わらず、そのことをまったく理解していない。ましてや人から飯をもらおうなどという甘ったれた考えまで持ち合わせている。
ふざけるな。これだから人間に飼われていた猫はダメなんだ。心の底からベンチはそう思った。
やはりコイツと関わるとろくなことがない。さっさとずらかるか。しかし、黙って返してくれそうもない。苦渋の選択だが、しかたがない。
「わかった。じゃあ今回だけ特別だ。俺が苦労して手に入れたこのサンマをお前にやる」
ベンチがそう言うと、ネネは眼を輝かせ、本当にうれしそうな笑顔を見せた。
「ありがとう!! ベンチって優しいんだね!」
ネネは無邪気にそう言うと、無我夢中でサンマにかぶりつく。
「あばよ」
ベンチは自分だけにしか聞こえないほど小さい声で呟くと、その場を後にした。
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