1334人が本棚に入れています
本棚に追加
その思いが何なのか、翼には知るすべもない。
ただ、取り乱していることだけは承知していた。
翼は放課後何時も祖父の家に入り浸っていた。
部活は帰宅部。
つまり、何処にも所属していない。
そのためクラスメートにはがり勉だと思われていた。
翼はクラスの中では成績優秀な生徒だったのだ。
それにはこんな理由があった。
この堀内家が翼にとっての塾だったのだ。
翔は有名な私塾に通わせているのに、翼はそのまま放って置かれていたからだった。
見かねた勝が乗り出したのだ。
だから、放課後は此処へ来て勉強していたのだった。
そして土日は忍。
翼の学力と知識はこのようにして構築されていったのだった。
その上……
大好きな祖父とのたわいもない会話が、荒んだ心を癒やしてくれていた。
でもその祖父は今、大病を患って入院していた。
それでも癖で寄ってしまっていたのだった。
でも今日は日曜日。
忍も純子も居ないなんてことは滅多にないことだったのだ。
「お義兄さんね、何時も言ってるのよ。本当は翼君の方が頭が良いって。じゃ又来るってお姉さんに言っておいて」
陽子は手を振って帰っていく。
(あ……ヤバい!)
何がヤバいのか解らない。
でもこのまま帰られてはいけないと思った。
翼は慌てて陽子を追いかけた。
「叔母さんに叱られます。上がって待ってて下さい」
翼の口からつい出た言葉。
その一言に陽子はカチンときた。
「翔君。じゃなかった、翼君! 私のお姉さんに対しておばさんはないんじゃないの!!」
陽子思わず声を荒げた。
「あっ、そうか」
翼は頭を掻き掻き謝った。
(ん!?)
翼は上目遣いに考えた。
(あれー?)
翼は何で謝ったのか解らなかったのだ。
「お義兄さんと私のお姉さんは、十歳離れているの。そのことも頭に入れておいてね」
陽子の言葉でやっと叱られた意味を理解した翼。
「はい。分かりました。でも、何て呼んだら」
としか言えなかった。
翼は腕を組んだ。
でも答えは出ない。
「お義兄さんは翼君にとって?」
「叔父さんです。お母さんの弟なので」
やっとそれだけ言えた。
「あ、ごめん。そうだった。それじゃやっぱり叔母さんだわ」
陽子は急に笑い出した。
それを受けて翼も笑った。
「そうだよね。幾ら若くても叔父さんの連れ合いは叔母さんだよね」
陽子はそう言いながら微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!