出逢い

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 その思いが何なのか、翼には知るすべもない。 ただ、取り乱していることだけは承知していた。 翼は放課後何時も祖父の家に入り浸っていた。 部活は帰宅部。 つまり、何処にも所属していない。 そのためクラスメートにはがり勉だと思われていた。 翼はクラスの中では成績優秀な生徒だったのだ。 それにはこんな理由があった。 この堀内家が翼にとっての塾だったのだ。 翔は有名な私塾に通わせているのに、翼はそのまま放って置かれていたからだった。 見かねた勝が乗り出したのだ。 だから、放課後は此処へ来て勉強していたのだった。 そして土日は忍。 翼の学力と知識はこのようにして構築されていったのだった。 その上…… 大好きな祖父とのたわいもない会話が、荒んだ心を癒やしてくれていた。 でもその祖父は今、大病を患って入院していた。 それでも癖で寄ってしまっていたのだった。  でも今日は日曜日。 忍も純子も居ないなんてことは滅多にないことだったのだ。 「お義兄さんね、何時も言ってるのよ。本当は翼君の方が頭が良いって。じゃ又来るってお姉さんに言っておいて」 陽子は手を振って帰っていく。 (あ……ヤバい!) 何がヤバいのか解らない。 でもこのまま帰られてはいけないと思った。 翼は慌てて陽子を追いかけた。 「叔母さんに叱られます。上がって待ってて下さい」 翼の口からつい出た言葉。 その一言に陽子はカチンときた。  「翔君。じゃなかった、翼君! 私のお姉さんに対しておばさんはないんじゃないの!!」 陽子思わず声を荒げた。 「あっ、そうか」 翼は頭を掻き掻き謝った。 (ん!?) 翼は上目遣いに考えた。 (あれー?) 翼は何で謝ったのか解らなかったのだ。 「お義兄さんと私のお姉さんは、十歳離れているの。そのことも頭に入れておいてね」 陽子の言葉でやっと叱られた意味を理解した翼。 「はい。分かりました。でも、何て呼んだら」 としか言えなかった。 翼は腕を組んだ。 でも答えは出ない。 「お義兄さんは翼君にとって?」 「叔父さんです。お母さんの弟なので」 やっとそれだけ言えた。 「あ、ごめん。そうだった。それじゃやっぱり叔母さんだわ」 陽子は急に笑い出した。 それを受けて翼も笑った。 「そうだよね。幾ら若くても叔父さんの連れ合いは叔母さんだよね」 陽子はそう言いながら微笑んだ。
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