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とりあえず家の中に入った陽子は掘り炬燵に潜り込んだ。
「あれ布団替えた? 何か厚ぼったい」
堀内家は夏でもレースのカバーを掛けてそのまま堀こたつを使用していた。
「これでスイッチ入れれば冬みたいだね」
陽子はそう言いながら、炬燵の中をのぞき込んだ。
「でも不思議。スイッチ入ってなくても何か暖かい」
陽子は翼の用意した青い蜜柑を食べながら姉純子の帰りを待つことにした。
「初蜜柑よ。でももうあるとはね」
陽子は顔を少ししかめながら、まだ酸っぱい蜜柑を頬張った。
「さっきそこでカワセミの道標見たんだけど、横瀬に居たっけ?」
陽子はまだ首を傾げながら翼に聞いた。
「あ~ああれですか? あれはカワセミではなくヤマセミだと聞きましたが」
翼は腕を組んだ。
「実は僕もカワセミだと思っていました。行ったことないのですが、武甲山にいるらしいです」
照れ笑いをする翼を、陽子はじっと見つめた。
翼は恥ずかしそうに目を伏せた。
掘り炬燵で蜜柑を食べていると、陽子の姉・純子が帰って来た。
「あら陽子どうしたの!?」
純子は突然の妹の訪問に驚いて、陽子の元に駆け付けた。
「お母さんに何かあったの!?」
(ありゃーやっぱり)
そう来ると思いつつ、何時も驚く陽子。
「ううん」
陽子は目を丸くしながらも首を振った。
(またか)
正直そう思う。
純子は陽子の顔を見ただけで母の節子を思い出すようで、何時も駆け寄っていた。
「あー良よかった。何かあったかと思うじゃない」
純子はやっと落ち着いて、掘り炬燵に入った。
何の連絡もしないで訪ねると何時も驚く純子。
そんな姿を見る度に悪いことをしたと反省する陽子。
それでもつい足が向く。
それには本当は理由があった。
純子と忍。
この仲の良い歳の差カップルを観察するためだったのだ。
陽子は恋知らずだった。
だから二人を参考にしようとしていたのたった。
「クラスメートが遊びに来てね、送るついでに一駅乗っただけよ。定期券もあるしね。そしたら翼君に、叔母さんに叱られるから上がってって」
「何だそんなこと。それじゃ連絡しようがないか」
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