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彼女が死んだのは、それから二日後だ。
悪ノリした男子生徒が、椅子で彼女の頭を殴ったらしい。
即死だったと聞いた。
彼女はすぐに救急車で運ばれたが、助からなかったようである。
頭蓋骨が陥没していたそうだ。
この事件は、けれど事故として処理された。
どのような圧力がかかったのかは知らない。もしかしたら、男子生徒の親が偉かったからかもしれない。
その後の半年間は何事もなく、あっという間に過ぎていった。
殴った男子生徒は転校して、今はもういない。
僕はというと、そんなことがあったにも関わらず、未だにここで、ただ諾々と教師を続けている。
最近になり、対象を変えて再発したイジメの問題について、会議が行われた。
漠然とした精神論を掲げる一部の教員の意見を除けば、その内容は、いかにして事実を隠すかという現実的な問題に重心を置いたもので、学校側もイジメに対して……いや、世間に対して神経質になっていることが窺えた。
過去に一人死んでいるのだから、当然といえば当然とも言えるが。
僕は、イジメは人間の習性だと思っているので、なくなるとは考えていない。
彼女は、自身がイジメられるための人形だと思い込むことで耐えていたようだが、そのうち本当に、そんなモノが生み出される日が来るかもしれない。
人の身勝手を背負わせる為に。
僕と彼女を含む、全ての人々が得られる平穏なんていうのは、不都合なことから目を逸らしたときにだけ見える、一瞬の幻想でしかないのだから。
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