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それからしばらくの間、彼女の姿を見ることはなかった。
彼女の方が意識的に避けていたのかもしれない。
イジメは日に日にエスカレートしていたようだから、僕に気をつかってくれたのだろう。
生きた彼女と最後に会えたのは、春休みに入る一週間ほど前。
夕暮れどきの屋上だった。
僕が柵にもたれてタバコをふかしていたときに、たまたま彼女がやってきたのだ。
少しやつれた様子の彼女は、よろめきながら僕の隣に来ると、無言で柵に手をかけた。
自殺するの? と僕が尋ねると、彼女は首を横に振った。
「私は死ねないもの」
僕も、その言葉の理由は知っていたので、ただ頷いた。
「きっと、ここから飛び降りても、修理してまた使われるわ」
そうだね、と素っ気なく僕は答える。
「それに、本当は辛くなんてないの。私が悲しそうな表情をするのは、その方がイジメられやすいからよ。無表情だと、イジメる方も萎えてしまうでしょう?」
僕は答えない。
「この顔も、仕草も、声も、体型も、全てイジメられやすいように設計されているの。見ているだけで憎らしくなるように」
彼女はまた苦しそうに笑う。
まるで、その笑い方しかプログラムにないのだと自嘲するように。
「私が存在することで他の子供たちは救われるの。誰も、イジメられなくて済むのよ」
素敵な使命だね――そう、小さく呟いたが、届いただろうか。
彼女は僅か、頷いたように見えた。
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