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「狂平」
狂平はこっちを向かない。
でも俺が声をかけた時肩がピクッと動いたから、聞こえてない訳ではないみたい。
「狂ー平ー」
今度は狂平の左隣に立ち顔を覗き込むように声をかける。
「…ザン、部活は?」
狂平は空を眺める目線はそのままで口を開いた。
「狂平がまだ来てなかったからここかな~と思って来ただけ」
「そんだけでわざわざサボって来たって訳?」
「そんだけでって言うなよ。だって俺狂平のスカーフじゃん?だから」
ピースサインを狂平の目の前でちらつかせると、やっとこっちを向いてくれた。
「だからスカーフじゃなくてストーカーだろ?バーカ」
「あ、あはは…また間違えた…」
意地悪そうに狂平が口角を上げる。
でも真っ赤な目、頬に付いている涙の跡が酷く痛々しく見えて、俺はうまく笑う事ができなかった。
狂平は俺のそんな様子に何か感づいたのか、頬を拳で乱暴に拭った。
「お前笑うの下手くそ」
「ごめん…」
「何でお前が謝るんだよ。あんな人の集まる所で喧嘩してた俺と浦正が悪いんだよ。ザンは心配して来てくれたんだろ?ありがと」
ふわりと俺の右肩に重みがかかる。
狂平が俺の肩に頭を乗せたからだ。
こんなに近くに狂平を感じるのは初めてで、頭に響くくらい心臓がバクバク言っていた。
甘えられたのは間違いなく初めてだ。
狂平がこうやって人に体預けるのも浦正に対してぐらいしか見たことがない。
ふと嫌な違和感を感じた。
何で狂平は浦正にしか甘えないんだろうか。
そう言えばみんなで一緒にいる時、狂平はいつも浦正の隣にいる。
昼寝をする時も絶対体を預ける相手は浦正だ。
『緑川狂平が好きだから』
浦正の声がこだまする。
嫌な考えが頭を駆け巡る。
「…ザン?険しい顔してどうしたんだ?」
いつの間にか狂平が俺の顔を覗き込んでいた。
「い、いや…あ、そーだ!これ狂平が好きかと思って買ったんだけど」
そう言えば忘れていたジュースを取り出し渡した。
癪に障るが浦正に言われた通りにシナモン入りのカフェオレを買った。
それを受け取った途端、狂平の目が大きく開いた。
「これって…浦正からだよな…?」
だから何でまた浦正なんだ…
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