黒煙

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雪は、静かに寝息をたてていた。 まるで本当の妹を見るかの様に春江は優しい目で雪を見ていた。 大切な大切な主であり、妹である雪。 「ったく…絶対猿の所の島に惚れてんじゃ無い。お雪様…」 春江には解る。 愛しいと想えた男が昔はいたのだから。 そして、雪には今その人が現れたのだ。 きっと真面目な雪にとっては初恋であろう。 しかし時代が時代だ。 愛しい男と結ばれる女などこの戦国乱世にはほんの一握りすらいないのだ。 しかし雪には類いまれな美貌とその気質がある。 もし上手くいけば、きっとあの島と結ばれるのだって夢では無いだろう。 しかし春江には気になる事があった。 いや気になる事なんかでは無く、ほとんど確信している事だ。 きっとあの石田という治部は、雪に惚れている。 あの目が何よりの証であった。 高虎に頼まれ何度か石田三成の下へ足を運んだ事がある。 その時彼を見たとき、冷たい奴だと春江は思った。 目が冷えきっていたのだ。 しかし先程のあの三成の目はどうだった? まるで、心底溺愛している嫁を見るかの様に優しさに溢れていたのだ。 「お雪様に手を出すなら、私が容赦しないがね……はっ!」 鼻で笑い飛ばすと春江は雪が読んでいた書物に目を通し始めた。 布団の中で眠る雪は、あどけない表情を浮かべていた。
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