黒煙

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時は戦国。 群雄割拠な日の本は今二つの巨大勢力に別れていた。 近隣の国主から「サル」と呼ばれている豊臣秀吉。 そして、「狸」と呼ばれている徳川家康。 二つの勢力の対立は深まっていくだけである。 しかし表だっての戦は控えている。 理由は―――どちら共多大な犠牲を出したく無いという理由からだった。 そして、今日。 藤堂家の養子である雪は山賊の征討にこの地へ赴いた。 「お雪様。山賊が畏れておりまするぞ、はっ!」 鼻で笑いつつ、敵を紅で染めていく背中を預けたくのいちが口を開いた。 そして無表情に敵を切り捨てていく少女は、どこか遠い目をしていた。 「……何故、高虎様に逆らうのでしょうか…」 ぼやく少女に背のくのいちはまた鼻で笑った。 「はっ!そんなの徳川殿が早くサルを討伐しないからですよ」 その応えに、少女は更に強く刀を握り締めた。 乱世が早く終われば良い。 民も、大地も、疲れはてている。 そんな姿、少女は見たくなかった。 何より少女が嫌なのは自分を拾ってくれた主君である高虎が、戦にて人を斬る事だった。 彼には汚れ役は受け持って欲しく無い。 それなら汚れ役は、全て自分が引き受ける。 固い決意を胸に少女は刀を振り続けた。 肉を裂く感触と音。 血のまとわりつく不快な匂い。 それでも刀を振る。 まるでこの乱世ごと己すら斬ってしまいそうな勢いで。 「お前は……藤堂の姫武者か?」 直ぐ背後で声がした。 己の背を守るくのいちが口元にひきつった笑みを浮かべ、その男を睨んだ。 少女も向かってきた山賊を斬り捨てると、無表情に男の方へ向き直った。 血の滴る少女に、男は眩しそうに目を細めた。
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