黒煙

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「貴方は…豊臣の者ですか?」 少女――雪は、男に尋ねた。 もしこの男が豊臣の手の内にいるならば、斬る。 「お雪様、こいつ……豊臣の…」 雪を庇う様に一歩前へ進み出たくのいち、春江は更に口元を歪めた。 「俺は、豊臣家奉行の石田三成と申す」 ――敵か。 雪は刀を握り締めた。 しかし雪も春江も共に動こうとはしない。 この奉行とかいう三成に畏怖した訳では無い。 その直ぐ斜め後ろにて控えている大男。 二人はその大男を警戒していたのだ。 常人ならば絶対に持ち上げる事すら出来ないであろう刀を、大男は片手で肩に担いでいたのだ。 それに、顔や露出している腕には幾つもの傷が刻まれている。 激戦を勝ち抜いてきた猛者に違いは無い。 「お前の名は?」 威厳の高そうな顔だ。 雪は三成を見て苦い顔をした。 いかにも自尊心の高そうな、そして周りからは疎まれている存在であろう。 それに比べあの大男は―― 雪は静かに大男へと視線を向けた。 立ち姿こそ、隙だらけに見えるが実は隙など全く無い。 「石田家家老、島左近にございます」 丁寧に頭まで下げて、左近は言った。 笑みすら浮かべている。 その様子が雪には不快で極まり無かった。 「藤堂高虎様が養子、藤堂雪」 「そのお雪様が臣下、春江」 端的に言葉を言って雪は刀を、春江はくないを握った。 徳川の手の者だと解ると左近が溜め息を付いて、主を見た。 三成も左近に振り向くと頷きその場を後にしようとする。 「闘わないのか」 雪が表情を更に不快に染めた。 甘く見られては堪らなかった。 藤堂家の養子として、恥の無い生き方をせねばならないのだ。 「雪。戦にて会い見えようぞ」 そう言うと三成は去った。 左近は御辞儀をすると、主の背に従って歩いて行った。 残された二人は、山賊の遺体の中で佇んでいた。
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