序章

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フェンスを乗り越え、屋上の縁に立つ女の子の顔は見えない 「捨てるの?」 風の中から聞こえた葵の声に振り向く 葵の長い髪が風になびいている 「?!誰?!」 見とれて返事に遅れてしまった 「捨てるの?」 繰り返し問うその声も表情も責める風ではなく、ただ真っ直ぐに瞳を捉えて離さない 屋上のフェンスを越えた端に立つその意味は明らかで 一歩踏み出せば風の中 コンクリートに横たわることになる 「命、捨てるの?」 「え…?」 「私にちょうだい」 なびく髪を手で抑え、柔らかく微笑む彼女は色香を孕んで… 「…え?」 「捨てる命なら私にちょうだい。ね?」 戸惑う彼女に撫でるような風が吹き、微笑む彼女の優しい香りが包んだ 松下美優 葵に次ぐ成績優秀者 肩までの髪が風に遊んでいた
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