我が名は…

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その男は、静かに口を開いた。 「向こうの様子は…?」 「今だ動きはありません…」 「…そうか…」 言いながら男は立ち上がった。見事な体躯に、少しクセのある束ねた長い髪。端正な顔立ちながら、その目は獲物を狙う獣のようにギラギラと輝いていた。 「このチャンを捨てるぞ…」 男の言葉に、その場にいた数名の者が膝を乗り出した。 「では、いよいよ…」 見事な体躯の男は、それには答えず、チャンと呼ばれる砦の壁にかけてある弓を静かに取り上げて言った。 「ヌシ等の武器にカムイを宿せ…部族の誇りと未来を、カムイに預けるのだ!」 「ウオォーッ!!」 チャンの中に、荒ぶる男達の叫びがこだました。 「長(オサ)ーっ!」 チャンの外から、見張り と思われる男が駆け込んできた。 「シマコマキのチャンから伝令が来ました!」 「通せ!」 「ハッ!」 その返事が合図であったかのように、そこに居た男達は中央を広く空けた。 チャンの中に入ってきたのは、およそ伝令役とは思えない程の風格をした男だった。二人の連れを両脇に置き、男は「長」と対峙した。 「…外で勇ましい声が聞こえましたが?」 言われて「長」が微笑んだ。 「あなたが来てくれるとは…。シマコマキの副首長フシクリ。」 お互いに手を取り合い、二人は笑った。 「何しろシャモのいる地域を横切らなければならないのでな。そこらの奴では荷が重い。だから来たのだ。」 「長」よりも年配であろうその顔には、いかなる障害もものともしない気迫が感じられた。 「危険を冒してまでフシクリが来てくれたと言うことは…」 「長の申し出、受け入れる。」 長はバシッと膝を叩いて言った。 「ありがたい!これこそカムイの助けだ!」 周りの男達も嬉々として喜んだ。 「フシクリ、我が戦いを見ていってくれ!この先にシャモの陣がある。数日様子を見ていたのだが、頃合いもよし。奇襲をかけようと思っていたのだ。」 「手助けは…?」 「見ていてくれれば良い。そして我等の戦いを、シマコマキの皆に伝えてくれ!」 そう言うと「長」は、周囲の男達に向かって言った。 「者共!武器を持て!」 チャンが騒然となる中、「長」は外に飛び出し空に向かって叫んだ。 「空のカムイよ!我が戦いをその目に刻め!我が名はシャクシャインなり!!!」
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