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「山に入るぞ…」
緩い斜面を登る。
「ここ、来た道だったっけ?」
敦子が不安げに声をかける。
「ん…いや、どうだろう。…大丈夫だって、この山の向こうに車あるから。」
……信じらんない…
「ところでさ敦子、本当にあんのかなぁ、このあたりに…」
ここに来た目的。まだ発見されていない「チャン(砦)」の痕跡を探す事。
「わかんないから調査に来たの。」
「あっそうか。」
「長居先生の話だけど、シャクシャインの戦いのあと、ほとんどのアイヌ人は投降したけど、山に逃げて抵抗した人達がいたらしいわ。ゲリラ戦ね。ここは、シャクシャインの治めていた地域の北側だから…」
敦子は、垂れ下がる木々の枝を払いのけながら説明を続けた。
「こちらに逃げた可能性は充分ある訳よ。彼等は…」
「敦子、しっ!」
前を歩いていた良太が敦子を制止した。
「なんか聞こえないか…?」
良太は耳をすましている。
「えっ?何?」
敦子もあたりを伺うが、何も聞こえない。
「聞こえないよ、良太。」
「………。勘違いだ、アッハッハ、行こっか。」
…なんか調子狂うんだよなぁこの男…
敦子の心中は、良太もわかっていた。だが、良太は心の中でこう思っていた。
…聞こえた…、間違いなく…俺にだけ聞こえたんだ…『越えし者…我が血縁を…救え…』と…、何の事だ…?
二人は、二日前にこの土地にやって来たのだが、その時から良太は軽い頭痛を感じていた。そして頭痛のあとは必ずといっていい程、耳の奥で何かが騒いでいたのだ。良太は、その何かを今、はっきりと受け取った気がしていた。
「キャアッ!!」
突然、敦子が叫んだ。
「どうした!?」
湿った地面に足を取られた敦子は、大きくバランスを崩し、そのまま沢の方へと倒れこんでいった。敦子は、数回転がりながらも木の根に引っ掛かり止まった。
「大丈夫か!?」
良太は、急いで敦子の所まで行き声をかけた。
「怪我は?」
「ん…、何とか大丈夫。」
「助かったな、でかい木があって…」
見事なエゾ松が敦子を受け止めてくれていた。
「立てる?」
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