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霜月五日。
皇子は赤兄の屋敷で密会をしていた。
「これでどうだ?」
「お言葉ですが、皇子。この方が良いかと」
「そうか……。難しいな」
皇子が屋敷を訪れた時には巽(タツミ・南東)の方角にあった日は、いつしか坤(ヒツジサル・南西)で赤くなり始めていた。
「難しい……」
計画を練る度に皇子は頭を抱え、脇息(キョウソク・肘掛け)に肘をついた。
ちょうどその時。
バキッ
皇子の肘辺りで音がし、皇子は飛び上がった。
「何だ!?」
赤兄が慌てて皇子に近づくと、脇息が真っ二つに割れていた。
「申し訳ございませぬ!このようなものを用意するなど……」
「もう良い、赤兄」
赤兄が謝るのを皇子が止めると、赤兄はもう一度だけ謝り顔を上げた。
「しかし、何と不吉な……。もしかしたら、この計画を止めよとの天からのお達しやもしれませぬ」
「そうかもしれぬな。やはり、帝と皇太子様を討つなど、天は許さぬのか」
「皇子。この計画は無かったことに致しましょう」
皇子が頷くと、
「もうこの計画はひとまず止めなければなりませんね。何が起こるかわかりません。時が来たらまた進めるのが良いかと」
皇子は赤兄の言葉通り、ひとまずこの話を考えるのを止めることにした。
その後赤兄は、関わってくれたことへの感謝と謝罪の言葉を皇子へ告げ、温かく見送った。
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