第一話 椎葉

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その晩、皇子は自邸で酒を片手に思いを巡らせていた。 皇位に就かずに済んだ。 帝や皇太子様を討つという大罪を背負わずにも済んだ。 これで良かったのか……? いや、これでは民は今までの苦しい生活のままではないか。 どうしたものか……。 皇子が溜め息をつくと、不意におかしな音が聞こえた。 何だか外が騒がしい。 何かあったのだろうか……? 皇子がチラチラと外を気にしていると、家臣が皇子の元に転がり込んで来た。 「皇子、申し上げます。 左大臣蘇我赤兄様の軍勢がこの屋敷を取り囲んでおります!」 「なんだと?」 皇子が目を見開き家臣に詳細を聞くと、家臣も驚いた顔で話した。 「何でも、謀反人である皇子を直ちに差し出せと……」 家臣は震え俯き、声は消え入りそうだった。 「謀反人……」 そう呟いて、皇子は立ち尽くすしかなかった。 「軍勢は多く、すぐにでも踏み込まれそうです」 「私は何も、まだ何もしてないではないか………」 膝の力が抜け、皇子は座り込む。 騒がしさは大きくなり、ついに兵が屋敷に乗り込んで来た。 その家臣が顔を上げた時には、座り込んだ皇子は敵兵に取り押さえられていた。 「……大丈夫だ。きっと帰るよ」 皇子はそう言い残すと、兵に引かれて消えていった。 瞬く間の出来事だった。
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