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その晩、皇子は自邸で酒を片手に思いを巡らせていた。
皇位に就かずに済んだ。
帝や皇太子様を討つという大罪を背負わずにも済んだ。
これで良かったのか……?
いや、これでは民は今までの苦しい生活のままではないか。
どうしたものか……。
皇子が溜め息をつくと、不意におかしな音が聞こえた。
何だか外が騒がしい。
何かあったのだろうか……?
皇子がチラチラと外を気にしていると、家臣が皇子の元に転がり込んで来た。
「皇子、申し上げます。
左大臣蘇我赤兄様の軍勢がこの屋敷を取り囲んでおります!」
「なんだと?」
皇子が目を見開き家臣に詳細を聞くと、家臣も驚いた顔で話した。
「何でも、謀反人である皇子を直ちに差し出せと……」
家臣は震え俯き、声は消え入りそうだった。
「謀反人……」
そう呟いて、皇子は立ち尽くすしかなかった。
「軍勢は多く、すぐにでも踏み込まれそうです」
「私は何も、まだ何もしてないではないか………」
膝の力が抜け、皇子は座り込む。
騒がしさは大きくなり、ついに兵が屋敷に乗り込んで来た。
その家臣が顔を上げた時には、座り込んだ皇子は敵兵に取り押さえられていた。
「……大丈夫だ。きっと帰るよ」
皇子はそう言い残すと、兵に引かれて消えていった。
瞬く間の出来事だった。
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