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都から地方へと続く道に大きな集団があった。
その集団の中心には有間皇子がいた。
皇子は牟婁温湯へと護送されていた。
皇太子に尋問を受けるために。
「ここが磐代の浜でございます」
皇子も歴とした皇族。粗末に扱うわけにはいかない。
いくら死へと向かう道中でも。
「ここで御食事にしましょう」
護送の兵が言ってから暫くして、虚ろな目をした皇子の瞳が僅かに揺れた。
「磐代の浜……?」
長く口を開けなかったために嗄れた声が辺りに響いた。
一瞬静寂に包まれたが、すぐにざわめく。
──皇子が喋ったぞ。
護送の兵たちは、今までのように皇子の反応は無いと思っていた。
今までは話し掛けても無反応どころか食事も採らず全く動く気配が無いので、死んでいるのではないかと兵たちの間で囁かれていたほどだった。
そのため、皇子が磐代の浜に反応したのが不思議でならなかった。
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