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「執行致しました」
死刑執行の知らせを聞いた皇太子はほくそ笑んでいた。
「ご苦労」
これで邪魔者は、消えた。
より良い国を作るには、人の命を惜しんではならぬのだ……。
報告が終わり戻ろうとした臣下の者が見たのは、頭を抱え複雑な表情をした一人の男の姿であった。
その知らせは蘇我赤兄の元にも届いた。
皇太子とは違い、赤兄は安堵していた。
殺して良かったものか、ずっと迷っていた。
──皇太子様に逆らってはいけないのだ。
そんな気持ちでこの計画を進めていた。
──人を陥れるのは嫌いだ。
──しかし、致し方ないことだったのだ。
赤兄は牟婁温湯の方を向くと、膝をつき手を合わせた。
──どうか許して下さい。
この時、赤兄も皇太子も知る由(ヨシ)は無かった。
皇太子の孫が同じ運命を辿ることを。
赤兄の孫娘で皇太子の娘がその痛みを味わうことを。
<fin>
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