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653年、難波。
ある屋敷の中に、壮年の男女と青年がいた。
上座に女が、その両脇に男二人が座っている。
「都を倭に戻そうと思います」
「何だと?」
青年の言葉に、男は口をあんぐりと開けた。
皇太子である青年の話では、都を今の難波(大阪)から倭(奈良)に戻そうと言うのだ。
時の天皇に皇太子が何を言い出すのか、天皇は怪訝に思った。
「ここだと色々不便です。ですから、倭に戻そうと申しておるのですが」
「私は嫌だ!」
「上皇も大いに賛成しておりますが?」
そう言われた天皇は、女をハッと見た。
上皇と呼ばれた女は息子の言葉に小さく頷いた。
「賛成していないのは貴方様だけだ。
──仕方ない、私達だけで倭に戻りましょう。
貴方様はご自由になさいませ」
皇太子と上皇は立ち上がり、立ち去ろうとした。
「おい、待ってくれ!姉上!」
姉と呼ばれた上皇は振り返り、天皇を見て軽く会釈した。
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