第一話 椎葉

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653年、難波。 ある屋敷の中に、壮年の男女と青年がいた。 上座に女が、その両脇に男二人が座っている。 「都を倭に戻そうと思います」 「何だと?」 青年の言葉に、男は口をあんぐりと開けた。 皇太子である青年の話では、都を今の難波(大阪)から倭(奈良)に戻そうと言うのだ。 時の天皇に皇太子が何を言い出すのか、天皇は怪訝に思った。 「ここだと色々不便です。ですから、倭に戻そうと申しておるのですが」 「私は嫌だ!」 「上皇も大いに賛成しておりますが?」 そう言われた天皇は、女をハッと見た。 上皇と呼ばれた女は息子の言葉に小さく頷いた。 「賛成していないのは貴方様だけだ。 ──仕方ない、私達だけで倭に戻りましょう。 貴方様はご自由になさいませ」 皇太子と上皇は立ち上がり、立ち去ろうとした。 「おい、待ってくれ!姉上!」 姉と呼ばれた上皇は振り返り、天皇を見て軽く会釈した。
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