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その後、父は愚痴一つ溢さずに仕事を続けた。
しかし──。
「父上!」
長月の頃、とうとう父が倒れた。
駆けつけた少年に父は力無く微笑んだ。
「すまないな、こんな父で」
「そんなことない……!父上は立派な御方です!」
「お前も立派になった。ただ、お前がもっと立派になるまで生きていたかった」
「そのようなことを仰らないで下さい!父上にはまだまだ生きていただかないと困ります!」
泣き顔の息子に父は再度微笑みかけた。
「お前は頭を使って生きろ。決して皇位を継ぎたいなどと欲を出すでないぞ」
神無月の始め頃、皇太子や皇后、上皇や臣下が天皇を見舞うために都に戻って来た。
しかし、心の傷や激務のための症状は癒えず、天皇の病は悪化の一途を辿るのみだった。
神無月十日。
自らのために戻ってきた皆を想い少しの喜びを感じた天皇は、静かに息を引き取った。
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