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「──それはそれは、とても美しゅうございました。湯に浸かりながら壮大な海を眺めることが出来るのです。
帝や皇太子様にも、是非あの景色を御覧になっていただきたい」
都に戻った皇子は、天皇と皇太子に牟婁温湯の素晴らしさを長々と語った。
純粋に、あの場所を知ってもらいたいだけだったのだが。
皇子の熱心な話に目を輝かせたのは、天皇であった。
「ねぇ、葛城。私も行ってみたい」
「海を見渡しながら入る湯、か。確かに入ってみたいですな」
皇太子が皇子の話に関心を向けたのを良いことに、天皇は一人で話を進める。
「葛城、いつなら行ける?」
「それは、来年の神無月までお待ち下さい」
「そこまで待つの?」
「仕方無いのですよ、仕事があるのですから」
皇太子の言葉に溜め息をつくと、天皇は皇子の顔を見て口を開いた。
「それはさておき、ご苦労であった。そなたが元気になって何よりじゃ」
「有り難き幸せ……」
天皇に労りの言葉を貰い、皇子は嬉しそうに自邸に戻っていった。
──何だか、上手くやっていけそうな気がする。
仮病を使って本当に良かった、と思う有間皇子であった。
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