第一話 椎葉

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その晩のこと。 暗い部屋に、男が二人いた。 僅かな灯りで、一人が立って屋敷の外を見ていて、残りの一人座っているということを見てとれる。 立っているのは皇太子か。 「彼奴(アヤツ)を操って、謀反を企てるように唆(ソソノカ)せろ」 「畏まりました。して、どのように?」 男が首を傾げると、皇太子が振り返り、男をまじまじと見た。 「彼奴は正義感が強いからな。私と母上が失政をやっているとでも言っておけ。お前の器量であとは何とかしろ」 「失政……?私には、そのような事例が思い浮かびませぬが……」 皇太子が男の言葉に鼻で笑った。 「それは世辞か?」 「いいえ、とんでもない」 「まあ、いい」 皇太子は膝を折り、口を男の耳に近付けた。 「──分かったか?」 「はい。この三つですね」 「ああ。くれぐれも失敗の無きように」 男は深々と頭を下げた。 「頼んだぞ、赤兄──」
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