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その少々頼りない縄は僕の顎の辺りで輪になっていた。
僕はますます自分の置かれている状況が分からなくなった。
飛び降り自殺を計ったその直後に今度は首吊りの縄を目前としている。
縄に触れ、その感触を確かめる。
それはざらざらと僕の指に絡んだ。
僕は、死んでない。
生きている。
死へと誘う筈の縄が、その荒い触り心地でそう実感させた。
不意に、小綺麗な部屋に澄んだ女の人の声が響いた。
僕はビクッと肩を震わせ、ドアを見つめた。
真っ白な扉の向こうから聞こえる声はどこか不安げな色感を抱いていた。
並行するノックの音に掻き消されまいとする女の声はどうやら誰かの名前を叫んでいるようだった。
はっきりと聞き取れなかったが少なくとも僕の名前ではなさそうだ。
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