二人

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足を早めビルを見上げる。 下からでは舞川梨恵の姿は確認出来ないが、きっと居る。 僕は確信して立ち入り禁止のロープをくぐった。 どろりとした重い空気が肺に送り込まれる。 鼻をつく臭いが漂っている。 この場所で、このビル火災で何人命をおとしたんだろう。 何人の心臓が炎に包まれたんだろう。 壁や柱の焼け焦げた跡から人々の苦しげな叫びが聞こえてくるようだった。 僕はどうかしていた。 自殺するためにここを訪れた時、僕は何とも思わなかった。 人々の断末魔の叫びが聞こえなかった。 僕は目を瞑り大きく息を吐いた。 あぁ、早く綺麗な空気が吸いたい。 吐き気を抑え、炭と化した床を音をたてて進み、脆くなっている階段を上がった。
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