二人

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一段一段、ゆっくりと上がる。 唇を噛み締めて。 焦げ跡の隙間からかろうじて見える階数を示す数字が5になって僕は足を止めた。 このビルは6階建てで、そう高くない。 なのに僕の足はまるで高層ビルを階段で上りきったかのように疲れ果てて震えていた。 精神的なものだろうか。 以前この階段を上がった時はほとんど疲労を感じなかった。 僕はやはり、死の魔力に取りつかれていたのだ。 安易に死を受け入れ、死を魅惑的なものだと思ってしまった。 そこなのだ。 それこそが死に秘められた魔力なのだ。 望んで死んだ人と望まないで死んだ人のどちらが多いのだろう。 死を望まない人の方が多いなら、こんなに皮肉な事はない。 このビルで死んだ人達は死を望んでいたのか。 そんなことはないだろう。 皆望まない死で死んだのだ。
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