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それどころか何にも手が当たらないということは壁すらも無い?
「そんなっ!」
周りに手を伸ばす、だが結果は同じ事だった。
半ば半狂乱になりながらがむしゃらに手を出していると…
ガタン!
不意に後ろから音が聞こえる。
ドキン!と心臓が跳ね上がったのも束の間、続けざまに上から光がカッ!と音源に向けて差し込む。
きっと僕はとてもマヌケな顔をしていただろう。
何故か、それは照らされた光の中心に人らしきものが見えたからだ。
「これはこれは『お客様』」
人の声だ。
ボーっとしている僕を後目にその声の主は降りてきた光源をランタンに入れ指を鳴らす。
パチン!
その途端強すぎる光が収まり、程よい、暖かな灯火が辺りを照らす。
そして次第に明らかになっていく人の形。
「………」
僕は事態が飲み込めずにいた。
入ったら突如光が消え、出ようとすれば扉は無く、そして急に差し込む強い光、その光を当たり前の様に収める…男。
人が出てきたというのに僕は唖然としていた。
「『お客様』、お待ちしておりました。」
男の風貌は大人、身長は高く180くらいはありそうだ、肉付きは華奢…でもなければ良い方でもない。
服装は黒のスーツ…らしいものにシルクハットと何とも浮き世離れをした格好をしている。
「いや、誰と間違えてるか知りませんが僕はただお尋ねしたいことがあるだけで…」
お待ちしておりましたって…僕がここをどこかも分かってないのに…
「いえ、間違えてはおりません、『お客様』は向井駿介様でございますね?」
「えっ!?」
思わず声を大にして驚いた、彼は僕の名前を言い当てたのだ。
それも考える様子もなく当然のように。
「……」
僕の戸惑いが大きくなる、何故この人は僕の名前を知っているのだろう…?
同姓同名?
そんな天文学的な事が起こり得るのか?
どの道現実的とはいえない。
「どうして僕の名前を…?」
問いかける。
「存じております、あなた様が此処にご到着いたした時から」
「此処?
…じゃあ此処がどこだか知ってるのかっ!?
僕が何処から来たのか知ってるのかっ!?」
僕は問い詰めた、だってそうだろう?
途方に暮れて泣きかけてたんだ、こんな時まで冷静でいられる程僕は人間が出来ちゃいない。
すると男は僕の問い詰めに身じろぐ事無くこう答えた。
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