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「でもあなたはこんな何もない所で一体何をしてるんですか?」
と僕は尋ねる。
気まずかったので話題を変えたかった。
「私はご覧の通り、この図書館の館長を勤めております」
男は言った。
「図書館…ってこんな人っ子一人居ない場所で…ですか?」
僕は怪訝そうに聞き返す。
「ええ、ですが…『お客様』、この辺りに住んでいる人は居ませんがこの図書館を利用なさる方々はよくいらっしゃいますよ。」
「え~、そうは見えませんが…」
周りを見渡す…というか入った時に確認しているが人影は見当たらなかった。
まるで謎かけだ、住んでる人は居ないが利用者はいる…意味が分からない。
ハッキリしない答えに不信感を覚えながら僕はさらに言った。
「住人がいないなら利用者なんて現れるはずもないじゃないですか。」
正論だ。
本来図書館というものは近隣住民にのみ貸し出しを行うもののハズだし。
すると男はフッと笑い
「左様ですね。
ですが本図書館は貸し出しはいたしておりません。」
いや、そこが問題ではないのだが
「あなた様を含め、この図書館を今まで利用してきた『お客様』は数え切れない程おります。」
…本当かどうかは分からない…というか明らかに僕には違ってみえるんだけど…
「そうだ、帰り道、どっちか分かりませんか?」
話についていけない。
やっぱり早く離れた方が良い気がする。
「帰り道が無いわけではございませんが…」
男は口ごもる。
「今はお勧め致しません。」
はぁ?
今はお勧め致しません?
帰る帰らないは僕の自由じゃないか。
「急いでるんです!」
こみ上げるのは焦燥感。
早く帰りたい!
早く楽になりたい!
帰れば楽になる気がするのに…
「…取り返しのつかない事になってしまいますよ?」
そ…そんな大事になるものなのか?
「か…帰るだけなんですよ?」
声が震えている自分が情けない。
「時に帰るという当たり前の事も困難になる事もございます。
一度冷静になられてお考えになって下さい。」
とりあえず、この男はそもそも案内をする気は無いらしい。
さて…僕はここからどうやって帰ればいいのか…
この男にしばらく付き合い、気の済んだところで出口と帰り道を教えてもらおう。
回り道に見えるかも知れないがこれが一番の近道の様な気がする。
………気が進まないけど…
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